
- 人・動物・環境の健康を守る国際的な取組 -
2026年8月、国連食糧農業機関(FAO)、国連環境計画(UNEP)、世界保健機関(WHO)、国際獣疫事務局(WOAH)の4機関による「ワンヘルス共同行動計画」について、当初2022年から2026年までとしていた実施期間を、2029年まで延長することが合意されました。
この計画は、人だけでなく、動物、植物、環境・生態系の健康を一体的に考え、さまざまな分野が連携して健康上の問題を予防・発見・対応していくための、国際的な共通の行動枠組みです。
今回の延長により、引き続き、ワンヘルスの取組を計画・実施・発展させていくことができるようになります。
〈そもそも「ワンヘルス」とは?〉
私たちの健康は、人だけの問題ではありません。
例えば、新しい感染症が広がる背景には、野生動物や家畜、人の暮らし、森林や土地の変化など、さまざまなことが関係しています。
また、食品の安全や薬剤耐性、気候変動、環境汚染なども、人・動物・環境がつながっている問題です。
そこで、「人の健康」「動物の健康」「環境・生態系の健康」を一緒に考えるのが「ワンヘルス」です。

〈「ワンヘルス共同行動計画」とは?〉
「ワンヘルス共同行動計画」は、FAO、UNEP、WHO、WOAHの4機関が共同で策定した国際的な行動計画です。2022年に始まり、当初は2026年までの計画でした。
今回、実施期間が2029年まで延長されることになりました。
この計画は、各国に何かを義務づけるものではなく、それぞれの国や地域が、ワンヘルスの取組を進めるときの「共通の道しるべ」となるものです。
世界各国がそれぞれの立場でワンヘルスを実践できるよう、国際・地域・国レベルでの連携や能力強化を支援することを目的としています。
〈4つの国際機関が連携〉
ワンヘルス共同行動計画を策定した4機関は、それぞれ異なる分野を担当しています。
| 機関 | 主な分野 |
|---|---|
| WHO(世界保健機関) | 人の健康・公衆衛生 |
| FAO(国連食糧農業機関) | 食料・農業・畜産・食品システム |
| WOAH(国際獣疫事務局) | 動物の健康・動物疾病 |
| UNEP(国連環境計画) | 環境・生態系・生物多様性・汚染 |
もともとWHO、FAO、WOAHの3機関が協力していましたが、2022年にUNEPが加わり、人・動物・環境をより幅広く考える体制になりました。
これは、ワンヘルスを進めるうえで、環境・生態系の視点がより重要になっていることを示しています。
〈ワンヘルス共同行動計画の6つの重点分野〉
ワンヘルス共同行動計画では、ワンヘルスを実践するための取組を、6つの「行動分野」に分けています。
1.ワンヘルスを実践するための能力・体制を強化
人の保健、動物衛生、食品安全、環境、農業などの関係者が、それぞれ別々に取り組むのではなく、分野を越えて協力できる仕組みをつくることを目指します。
国レベルでのワンヘルスの体制づくりや、人材育成、情報共有、研究なども重要になります。
2.新興・再興人獣共通感染症やパンデミックのリスクを減らす
新たな感染症の中には、動物から人へ感染する「人獣共通感染症」があります。
そのため、人の感染症だけを見るのではなく、「野生動物 → 家畜 → 人」など、感染症が発生・拡大する可能性のある経路を幅広く捉えることが重要です。

動物の感染症、人の感染症、環境の変化などの情報を共有し、感染症が大きな流行になる前にリスクを把握し、予防・早期発見・早期対応につなげることを目指しています。
3.人獣共通感染症・顧みられない熱帯病・媒介動物感染症に対応
すでに存在している感染症への対応も重要です。 例えば、人獣共通感染症や、蚊・マダニなどが媒介する感染症などについて、人だけでなく、動物や媒介する生物、環境まで含めて感染症の原因や広がり方を考えることが求められます。
4.食品安全のリスク評価・管理・情報発信を強化
食品安全もワンヘルスと深く関係しています。
例えば、「農業・畜産→食品の生産・加工・流通→人の食生活」という一連の流れを考える必要があります。
食品由来の疾病を防ぐためには、食品だけを見るのではなく、農業、畜産、動物衛生、環境など、食品が消費者に届くまでの過程全体を考えることが重要です。

5.薬剤耐性に対応
薬剤耐性とは、細菌などが薬に対して効きにくくなる問題です。
薬剤耐性は、人の医療だけでなく、動物の治療、畜産、農業、食品、環境など、さまざまな分野に関係しています。
そのため、「人↔動物↔食品↔環境」というつながりを考えながら、抗菌薬の適正使用や耐性菌の監視、情報共有などを進めることが重要です。

6.環境をワンヘルスに組み込む
環境・生態系をワンヘルスの中にしっかり位置付けることです。
森林破壊、土地利用の変化、気候変動、環境汚染、生物多様性の損失などは、動物や人の健康にも影響を及ぼします。
例えば、環境の変化によって野生動物の生息環境が変わることで、人や家畜との接触機会が変化し、感染症のリスクに影響する可能性があります。
このように、環境を守ることは、人や動物の健康を守ることにもつながります。
〈なぜ、「ワンヘルス」が重要なのか?〉
世界では、感染症の流行だけでなく、気候変動、環境汚染、生物多様性の損失、食品安全、薬剤耐性など、複雑な健康課題が生じています。
これらは、一つの分野だけでは解決できない問題です。
例えば、

というように、一つの環境・社会の変化が、人や動物の健康、さらに社会全体に影響することがあります。
そのため、問題が発生してから一つの分野だけで対応するのではなく、人・動物・環境をつなげて考え、リスクをできるだけ早い段階で予防することが重要になります。
ワンヘルス共同行動計画も、こうした複雑な健康リスクに対して、分野横断的な連携を進めることを目的としています。
〈2029年まで延長へ〉
今回、ワンヘルス共同行動計画の実施期間が2026年から2029年まで延長されることになりました。
2026年で当初の計画期間が終了する予定でしたが、延長によって、共通の国際的な枠組みのもとで、ワンヘルスに関する取組を引き続き計画・実施・発展させることができます。
また、政府だけでなく、国際機関、専門家、研究機関などの関係者が、国・地域・世界レベルで取組の方向性を合わせながら、ワンヘルスを継続して進めることが期待されています。
〈4機関の協力も2030年まで継続〉
今回のワンヘルス共同行動計画の延長は、4機関によるワンヘルスの協力関係を2030年まで強化する動きとも連動しています。
2026年には、FAO、UNEP、WHO、WOAHの4機関がワンヘルスに関する覚書を更新し、2030年までの協力を確認しています。
これにより、各国への技術的な支援、政策提言・啓発、資源の確保、国際・地域・国レベルでのワンヘルスの実践などについて、4機関が引き続き連携していくことになります。
〈ワンヘルスは「国際機関だけの取組」ではありません〉
ワンヘルス共同行動計画は、WHO、FAO、WOAH、UNEPという国際機関が中心となって策定した計画ですが、実際にワンヘルスを進めるのは、国際機関だけではありません。
国、自治体、医療機関、獣医療関係者、農業・畜産関係者、環境関係者、研究機関、企業、学校、地域の住民など、さまざまな立場の人が関わることが重要です。
例えば地域では、
「人の健康」+「動物の健康」+「農業・食品」+「環境・自然」+「地域社会」
をつなげて考えることで、その地域に合った健康課題への取組につなげることができます。
これは、国際的なワンヘルス共同行動計画が掲げる「分野を越えて連携し、健康リスクを予防・発見・対応する」という方向性ともつながっています。
〈これからのワンヘルスへ〉
「ワンヘルス共同行動計画」は、2022年に始まり、2026年で一区切りを迎える予定でした。
今回、実施期間が2029年まで延長されたことで、ワンヘルスを世界各地でさらに実践していくための時間が確保されました。
そして、この延長期間は、これまでの取組を振り返り、新たな課題に対応しながら、次のワンヘルスの取組を考えていくための重要な期間になります。
人、動物、植物、環境の健康は、それぞれ独立したものではありません。
人の健康を守るために、動物の健康を守る。
動物の健康を守るために、環境を守る。
そして、健全な環境や生態系を守ることが、人や動物の健康につながる。
こうしたつながりを理解し、さまざまな分野が協力して健康課題に取り組むことが、これからの「ワンヘルス」に求められています。
ワンヘルス共同行動計画の2029年までの延長は、こうした取組をさらに前へ進め、「人・動物・植物・環境がともに健康である社会」を目指す国際的な協力を継続していくための重要な一歩といえます。