ワンヘルスOne Health
ワンヘルス(One Health)とは 「人の健康」「動物の健康」「環境の健全性」を 一つの健康と捉え、一体的に守っていくという考え方です。
私たちが健康に暮らしていくためには地球に暮らす動物、 そして地球自身も健康である必要があります。
この考え方は、世界的に広がってきています。
具体的には、森林破壊や気候変動などが引き金となっている人獣共通感染症や薬剤耐性菌に関し、ワンヘルス・アプローチに基づいて取り組んでいくことが、G7 サミットや生物多様性条約第 15 回締約国会議(COP15)などの国際間の枠組みで合意されています。
ワンヘルスに関する動きOne Health Activities
2013年 | 日本医師会と日本獣医師会「ワンヘルス推進のための学術協定」締結 |
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2015年 | 第1回 WVA-WMA “One Health” に関する国際会議(マドリード / スペイン) 世界保健機関(WHO)「薬剤耐性(AMR)に関するグローバル・アクション・プラン」採択 |
2016年 | 第2回 WVA-WMA “One Health” に関する国際会議(北九州市) ワンヘルスの概念に基づき行動し、実践するために「福岡宣言」採択 |
2018年 | 東アジア3カ国(日本・韓国・台湾)獣医師会「獣医学術交流の推進に関する覚書」調印 |
2020年 | 「福岡県ワンヘルス推進基本条例」制定 |
2022年 | 第21回アジア獣医師会連合(FAVA)大会(福岡市) 「アジアからのワンヘルスアプローチ」をテーマとして開催され、世界中から多数の獣医師医療関係者、著名な環境問題の研究者が集い、ワンヘルスに関する最先端の研究・活動の講演が行われた。 アジアにおけるワンヘルス活動の指針となる「アジアワンヘルス福岡宣言2022」が採択 |
2023年 | 世界獣医師会大会にて、これまでのワンヘルス推進の功績を称えられ、日本獣医師会会長が「ワンヘルス特別賞」を受賞 |
問題解決のための
6つのポイント
ワンヘルスには「6つの基本方針」があります。
これらに基づいたさまざまな取り組みを行うことで、
理念の推進・実現へと繋げていきます。
1
人と動物の共通感染症対策
医療と獣医療をはじめ各分野と連携し、発生予防、まん延防止を図る
人に感染する病原体は現在1,400種以上といわれています。病原体とは病気を引き起こすウイルスや細菌のことです。病原体を保有する動物から人へ、また人から動物へうつる病気を「人獣共通感染症」といいます。
感染を防止するためには、①感染源 ②感染経路 ③宿主 の3つに対するそれぞれの対策が必要です。
さらに、人、動物、環境それぞれのアプローチによって、人や動物への感染を防ぐことが大切です。
2
薬剤耐性菌対策
薬剤の適正使用を推進する
「薬剤耐性菌」とは抗菌薬(抗生物質など)が効きにくくなる、あるいは効かなくなった細菌のことです。
抗菌薬を過剰に、また、不適切に使い続けていると、人の体内にいる複数の細菌のうち、抗菌薬が効く菌は消滅し、薬剤耐性菌が生き残ります。その結果、抗菌薬が効かなくなるなど、薬剤耐性菌などの治療はとても困難になっています。さらに薬剤耐性菌は、国境を越えて増加しており、すぐにでも薬剤使用について、世界的な協力による適正使用が必要な段階です。
そこで、WHO(世界保健機関)は2015年に、世界中で薬剤耐性菌対策を取り組む決議を採択しました。
また、国連総会やG7サミット(先進国首脳会議)でも、薬剤耐性菌対策の重要性を訴えています。
3
環境保護
良い環境と多様な生物のすみ分けを保つことが大切
近年のグローバル化や大量の消費・生産活動は、人類や動物にとって貴重な森林の過剰伐採をはじめ、生態系を破壊し、気候変動の一因となっています。地球の温暖化は熱中症のリスクを高めるだけでなく、豪雨や台風、山火事といった様々な災害の原因となり、人だけではなく、動物や植物にも大きな災いをもたらしています。
また、大規模な森林伐採や急速な都市化は、それまで森林の奥地に生息していたウイルスなどの病原体と人間が遭遇する機会となり、新しい感染症が発生する恐れがあります。
つまり、ジャングルの奥地に密かに生息している微生物と人間が接してはいけません。
自然環境は、人間も含め多様な生物が生きる場です。
良い環境と生物のすみ分けが保たれてこそ、人や動物の健康が維持されます。そして、健康にとって大事な環境を次の世代に引き継ぐことも忘れてはいけません。
4
人と動物との共生社会づくり
動物愛護の推進と野生動物の理解と共存を図る
少子高齢化の中で、犬や猫、鳥、金魚などの愛玩動物(ペット)は家族の一員として迎えられるケースが増え、伴侶として重要な位置を占めるようになりました。
愛玩動物は、高齢者にとっては共に老いていく仲間であり、子どもにとっては社会性を育むトレーナーでもあります。
人は愛玩動物の健康を守る立場ですが、逆に愛玩動物は人の健康づくりや生活の質(QOL)の向上に貢献していることが知られています。
愛玩動物といると笑顔や会話が増える、心が安まるなどの癒し効果があるといわれています。
また、人は、犬や猫をなでることで、心拍数や血圧が安定します。
このように愛玩動物は、医療や福祉・教育など様々な分野で広く活躍しています。
その一方で、犬や猫への虐待や、過剰飼育・繁殖が増え、遺棄や殺処分といった悲しい問題も起こっています。
愛玩動物との関係をより良く保つためには、愛玩動物の重要性を理解し、飼育法を熟知することが求められます。
5
健康づくり
自然や動物とのふれあいを通じた健康づくり
人の健康は、適度な運動習慣の定着や、食生活の改善といったことに加えて、人や動物が心も体も健やかな状態で過ごすことができる生活環境において、育むことができます。
例えば、豊かな自然の中を散歩したり、動物と触れ合うことは、年齢や性別、障がいの有無に関わらず、人を元気にする力があります。
これからの健康づくりは、家族や愛玩動物、環境とのつながりを大切にしていく必要があります。
私たちは人間だけで生きるのではなく、健全な環境の中で、様々な動植物の中で健康を維持できているのです。
6
環境と人と動物のより良い関係づくり
健康を支える「安全・安心」な食と「食育」の推進が不可欠
食は私たちの健康を支える源です。そして、食の生産には、例えばお米や野菜は、農地(大地)、太陽、水が必要です。
健康のためには、食は生産する環境が有害物質に汚染されないことが重要です。
また、肉や卵、牛乳などの畜産物は、動物(家畜)の「いのち」をいただいています。
つまり家畜の「いのち」が健やかであることが私たちの健康にも直結しています。一方、食の生産には、農家を始め多くの方々が関わっています。
このことから、継続的に「安全・安心」な食をいただくには、農産物の安全性を確認できる地元での生産と、
これを支える様々な生業(なりわい)や職業の持続が大事です。そして、「消費者は何を食べる?」「何を食べてはいけないのか?」を学ぶ必要があります。まさに学校や社会における食育です。
環境と人と動物のより良き関係が安全な食づくりを支え、私たちの健康と直結しています。