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タンザニアで進む「ワンヘルス」の実践

2026.7.10

〈医師と獣医師が連携し、顧みられない人獣共通感染症に挑む〉
人と動物、そして環境の健康は切り離して考えることはできません。この「ワンヘルス」の考え方を実際の感染症対策として形にしている国際共同研究が、現在タンザニアで進められています。

2024年から2029年までの5年間、日本医療研究開発機構(AMED)と国際協力機構(JICA)の地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)プログラムの枠組みのもと、「ワンヘルス・教育・官民連携による顧みられない人獣共通感染症介入の共同デザインに関する研究開発(OHEPP-SATREPS)」が実施されています。

本プロジェクトでは、タンザニア・モロゴロ州で、ブルセラ症と人獣共通結核という「顧みられない人獣共通感染症」の制御を目指し、医師、獣医師、研究者、地域住民などが一体となったワンヘルス・アプローチを展開しています。

〈人と家畜を同時に調査する「ワンヘルス」の実践〉
このプロジェクトの大きな特徴は、人の健康と動物の健康を別々ではなく、同時に調査・分析している点です。

〈獣医師チームは家畜の感染状況を調査〉
獣医師チームは、モロゴロ州の約400戸の畜産農家を対象に、牛のブルセラ症と牛結核のスクリーニング調査を実施しています。 ツベルクリン反応試験やLAMP法、ELISA法などを用いて感染状況を把握するとともに、陽性牛についてはさらに詳細な検査を実施し、地域における感染実態を明らかにしています。

また、ミルクバリューチェーンや薬剤耐性菌の調査も並行して行われ、人へ感染が広がるリスクについても評価しています。

〈医師チームは地域住民の健康を調査〉
一方、医師や保健行政担当者のチームは、モロゴロ州全域の一般住民を対象にコミュニティ調査を実施しています。
各家庭を訪問し、
 • ブルセラ症・人獣共通結核の感染状況
 • 人と家畜の接触状況
 • 疾病に関する知識・認識・行動(KAP調査)
などを調査しています。

さらに検体を採取し、人での感染状況と家畜側のデータを組み合わせることで、感染経路やリスク要因を科学的に解析しています。

つまり、「人だけ」「家畜だけ」を調べるのではなく、両者を同時に調査することで初めて見えてくる感染の全体像を明らかにしようとしているのです。

調査対象世帯の世帯主に聞き取り調査を行う様子
人獣共通結核の検査のため、リンパ節の腫れを確認している様子
ブルセラ症調査のため、血液サンプルを採取する様子

〈地域住民とともに感染リスクを見える化〉
本プロジェクトでは、感染症対策を専門家だけで進めるのではなく、地域住民が主体的に参加する「参加型疫学」も取り入れています。
畜産農家とのグループディスカッションでは、
 • 牛と野生動物、人との接触状況
 • 生乳の利用方法
 • 牛乳や乳製品の流通
などについて、参加者自身が生活に身近な豆などを使って視覚的に表現しました。
数字だけでは把握できない地域の生活様式や文化的背景を理解することで、その地域に適した感染症対策の設計につなげています。

〈教育と官民連携が持続可能な対策を支える〉
ブルセラ症や人獣共通結核は、多くの先進国では制御されている一方、発展途上国では十分な制度や予算が整わず、長年放置されてきました。
本プロジェクトでは、感染状況を調査するだけではなく、
 • 行政
 • 保健分野
 • 畜産分野
 • 教育機関
 • 地域コミュニティ
 • 民間関係者
が協力し、地域全体で感染症対策を進める体制づくりにも取り組んでいます。

さらに、教育活動を通じて住民一人ひとりが感染症への理解を深め、自ら予防行動を実践できる環境づくりも重要な柱となっています。

〈次世代人材の育成―現場で学ぶワンヘルス教育〉
本プロジェクトでは、次世代のワンヘルス人材の育成にも取り組まれています。これまで、日本の複数の大学から参加した学生・大学院生がタンザニアの現場で学ぶ機会を得てきました。

こうした取り組みの一環として開催されたイベントでは、現地で活動した学生・大学院生が登壇し、獣医疫学、人類生態学、JICAインターンシップなど、それぞれの立場からワンヘルスの現場での経験について発表しました。 発表では、「ワンヘルスの現場は身近にある」という共通した視点が示されました。人の行動が家畜や環境、さらには人の健康にも影響を及ぼしていることや、感染症対策には社会的・文化的背景への理解、分野を越えた連携が不可欠であることなどが共有されました。また、地域住民との対話や信頼関係の構築、多様な価値観を尊重することの重要性についても、多くの発表者から言及がありました。

JICAインターンシップに参加した帯広畜産大学共同獣医学課程6年生(当時5年生)の学生は、「家畜と人との距離の近さや、人・動物・環境のつながりを現地で実感し、ワンヘルスの重要性を身をもって学ぶことができた」と振り返っています。

〈発表者のフィールド活動の様子〉

当日は会場およびオンラインを合わせて60名以上が参加し、学生それぞれの経験や視点の共有を通じて、ワンヘルスが人・動物・環境、そして社会をつなぐ実践的なアプローチであることへの理解を深める機会となりました。

〈ワンヘルスが未来の感染症対策を変える〉
ブルセラ症や人獣共通結核は、人だけを診ても、家畜だけを管理しても十分な対策はできません。
医師が人の健康を守り、獣医師が動物の健康を守り、その情報を統合して感染源を特定し、行政や地域住民とともに対策を実施する――まさにワンヘルスの実践そのものです。

OHEPP-SATREPSプロジェクトは、医学、獣医学、社会科学、教育学など多分野が融合し、「顧みられない人獣共通感染症」の解決に挑む世界でも先進的な取り組みです。
このプロジェクトで得られる知見は、タンザニアだけでなく、世界各国における人獣共通感染症対策やワンヘルス政策のモデルとなることが期待されています。

人・動物・環境を一体として捉えるワンヘルスの考え方は、複雑化する感染症の課題に対応するための重要なアプローチとして、世界的に注目されています。タンザニアで進められている本プロジェクトは、医師、獣医師、研究者、地域住民が連携するワンヘルスの実践例として、今後の感染症対策に新たな知見をもたらすことが期待されています。

【情報・写真提供】
ワンヘルス・教育・官民連携による顧みられない人獣共通感染症介入の共同デザインに関する研究開発(OHEPP-SATREPS)

〈プロジェクトウェブサイト〉
https://ohepp-satreps.rakuno.ac.jp/

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