WOAHがホームページ上に掲載しているワンヘルスに関するアルゼンチンのエル・パルマル国立公園のケーススタディについてご紹介いたします。
※WOAH(国際獣疫事務局:World Organisation for Animal Health)は、世界各国と協力して動物の病気を防ぎ、動物と人の健康を守るとともに、人・動物・環境の健康を一体的に考えるワンヘルスの取組を積極的に推進している国際機関です。
掲載URL:https://www.woah.org/en/document/one-health-in-action-responsible-hunting-and-invasive-species-control-in-el-palmar-national-park-argentina/
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<参考> 内容を日本語に仮訳したものを以下に掲載します。
タイトル:「ワンヘルスの実践:アルゼンチンのエル・パルマル国立公園における責任ある狩猟と外来種対策」
課題の概要とワンヘルスの背景
アルゼンチンでは、特に野生動物、家畜、人間の相互作用が強まっている保護地域において、ワンヘルスの観点から見た課題が増大している。エントレ・リオス州に位置するエル・パルマル国立公園は、この複雑な状況を示す代表的な事例である。
同公園には、イノシシやアキシスジカなどの外来種が生息しており、在来の生物多様性、生態系、そして公衆衛生を脅かしている。これらの動物は、ブルセラ症、結核、レプトスピラ症、旋毛虫症など、人や家畜に感染する人獣共通感染症の病原体の保有宿主となる。これらの動物の生息数の増加に加え、無規制の狩猟や不十分な衛生管理により、感染症の発生リスクが高まっている。2007年には、旋毛虫症の非発生地域であったにも関わらず、公園内で駆除されたイノシシから旋毛虫の感染が確認された。
2016年以降、エル・パルマル国立公園では、ブエノスアイレス国立中央大学(UNICEN)及びブエノスアイレス大学(UBA)の研究者による国立公園行政局と連携したモニタリングのほか、より安全な狩猟慣行の推進がなされており、外来野生動物の管理にワンヘルス・アプローチを適用した先進的な事例となっている。
解決策とリスク軽減のための戦略
エル・パルマル国立公園における外来種の増殖、人獣共通感染症のリスク、環境汚染という相互に関連した課題に対処するため、「外来性哺乳類管理計画(PCMEI計画)」が策定された。この計画は、生態系、健康、地域社会という3つの側面を統合することで、ワンヘルスの原則を適用している。計画は、公園管理当局、地域の狩猟者協会、そして当初はUNICENの研究者によって共同で実施され、その後、UBA獣医学部の主導のもとで継続・発展してきた。
その中心的な目的は、イノシシとアキシスジカの個体数を減少させると同時に、人、動物、環境の健康を促進することである。2016年の開始以来、この計画では主に以下の取組が進められてきた。
〇イノシシやアキシスジカを対象とした狩猟動物の中から、ブルセラ症、レプトスピラ症、結核、旋毛虫症などの人獣共通感染症病原体を体系的にモニタリングし、健康リスクの評価や管理上の意思決定に役立つ重要なデータを蓄積する(生態系)
〇猟師に衛生教育を行い、安全な食肉取扱いを促進するとともに、疾病の伝播を抑制する(健康)
〇検査済みの安全な食肉を地域のコミュニティ組織に寄贈することで食料安全保障に貢献し、地域住民とのつながりを強化する(地域社会)
PCMEI計画のもとで行われる狩猟では、公園内に戦略的に配置した餌場を利用する。この活動には、関係者間の調整、訓練、標準化された手順が必要となる。詳細な現場記録と衛生評価が作成され、適応的管理や公衆衛生上の対応の指針となっている。
重要な要素の一つは、レンジャーや研修生を含む公園スタッフの積極的な関与であり、彼らは大学の研究チームと緊密に協力して活動している。UBA獣医学部は、学部生や大学院生を巻き込んだ普及・研修活動を展開し、卒業論文のテーマ創出にも取り組んでいる。また、人獣共通感染症の診断のための検体採取や、病理学的傷の識別について、レンジャーや猟師への研修も行っている。こうした取組は、地域の自律性を強化し、健康上の緊急事態への対応力を向上させている。
さらに、関係者間の情報共有を維持し、学際的な連携を強化するとともに、計画の弱点を特定して改善策を提案するため、定期的な講演会や参加型ワークショップが開催されている。こうした継続的な取組により、公園当局、狩猟コミュニティ、学術界の間に、信頼と責任分担の枠組みが確立された。
また、PCMEI計画は、公衆衛生に直接的な利益をもたらすだけでなく、外来の種が地域の生態系に及ぼす圧力を低減することで、生物多様性の回復と在来種の保護にも貢献している。
これまでに蓄積された経験と参加型の計画構造は、保全、健康、地域社会の参加をワンヘルス・アプローチのもとで統合した外来種の持続可能な管理のための再現可能なモデルとなっている。
【エル・パルマル、コロン狩猟者協会の会員のコメント】
「この管理プログラムに参加したことで、私たちの狩猟は変わりました。今では、肉を安全に扱う方法を知り、家族の健康リスクを避けると同時に、在来種の保護にも貢献できることを理解しています。私たちにとって、これはもはや単なる狩猟ではなく、より大きな責任の一部なのです。」
関係者
本プロジェクトは、エル・パルマル国立公園の職員とUBA獣医学部が主導している。公園レンジャー、狩猟者、地域コミュニティの団体が、狩猟、食肉処理、食肉の配布において重要な役割を果たした。国家動植物衛生・食品品質サービス(SENASA)は、畜産、公衆衛生に関連する疾病をモニタリングし、外来病原体、土着病原体の診断を行い、届出対象疾病を国際獣疫事務局(WOAH)に報告している。また、野生動物における結核の症例を国の届出制度に組み入れるため、保健省との連携も開始されている。
これらの活動は、参加型の計画策定と共通のプロトコルを通じて調整されており、長期的な生態系、健康上の目標達成には、地域社会の参画が不可欠となっている。
影響と成果
この取組により、イノシシやアクシスジカにおける人獣共通感染症病原体の地域初の記録を含め、極めて貴重な健康・生態学的データが得られた。2016年から2022年の間に320頭のイノシシが分析され、各狩猟では平均20~30人の猟師が、公園内の異なる猟場に戦略的に配置された。科学的モニタリングは、全国的な野生動物衛生システムが存在しない中で、疾病サーベイランスを強化する一助となった。
また、普及啓発活動により、狩猟者の健康リスクに対する意識が高まり、安全な食肉処理方法についての一般市民の知識も向上した。また、狩猟された動物の検査済み肉を地元の施設に配布することで、地域社会の健康づくりにも寄与した。
以上の結果から、本プロジェクトが科学的モニタリングと地域社会との協働を通じて、重要な課題の解決に寄与したことが示されている。ワンヘルスの枠組みの下で、公衆衛生、生物多様性の保全、そして責任ある野生生物管理に同時に貢献しており、実施上の障壁については、関係者への研修、参加型ガバナンス、そしてより安全で持続可能な実践方法の現場での実証を通じて克服された。また、学術機関との連携や現地プロトコルの実施を通じて、本プロジェクトは、国家レベルの枠組みが欠如している状況を補う事実上の野生生物モニタリングシステムを確立した。教育ツールの開発やSENASAなどの機関とのパートナーシップは、プロジェクトの信頼性をさらに高め、長期的な持続可能性を確保した。現在、このモデルをアルゼンチンの他の国立公園や保護区に拡大するための協議が進められている。
【マヌエル・ベルグラーノ校(エントレ・リオス州コロン)の食堂スタッフのコメント】
「検査済みのイノシシ肉は、私たちの地域の給食施設にとって大きな支えになっています。疾病を管理するとともに環境保全にも貢献するプログラムから提供された肉だと分かっているので、より安心できます。」
実施上の課題
主な課題としては、狩猟された食肉、副産物の統合的管理に関する国レベルの規制が存在しないこと、並びに長期的な健康・生態学的モニタリングに要する資金が限られていたことが挙げられる。
自然保全、公衆衛生、狩猟の各分野の間で連携するためには、継続的な対話と信頼関係の構築が必要であった。さらに、標準化された野生動物衛生サーベイランスが存在しなかったため、病原体の検出とモニタリングはより困難となった。
初期の成果は、このプロジェクトが科学的モニタリングと地域社会との連携を通じて、重要な空白を埋めたことを示している。これらの成果は、ワンヘルスの枠組みのもとで、公衆衛生、生物多様性の保全、責任ある野生動物管理に同時に貢献している。こうした障壁には、関係者への研修、参加型ガバナンス、そしてより安全で持続可能な実践方法を現場で実証することによって対処した。
学術機関との連携と現場プロトコルの導入を通じて、この取組は、国レベルの枠組みが存在しない状況を補完する事実上の野生動物モニタリング・システムを構築した。また、教育ツールの開発やSENASAなどの機関とのパートナーシップにより、プロジェクトの信頼性がさらに高まり、長期的な持続可能性が確保された。
現在、アルゼンチン国内の他の国立公園や保護地域にもこのモデルを拡大するための協議が進められている。この取組は、外来種や人獣共通感染症による同様の課題に直面しているアルゼンチン国内の他の国立公園にとっても、再現可能なモデルとなり得る。その影響を拡大するためには、制度的な支援と強固な国レベルの枠組みが不可欠である。
得られた教訓
この事例は、保護地域においてワンヘルス・アプローチを適用する際の重要な教訓を3つ示している。
1.生態系、健康、地域社会という3つの側面を早い段階から統合することが、長期的な成功を確保するうえで基本となる
2.地域の関係者、特に狩猟者との信頼関係を構築することが、疾病予防対策を実施し、持続可能な狩猟を推進するうえで極めて重要であることが分かった
3.公衆教育、科学的研究、政策対話を組み合わせることで、分野横断的な連携のための強固な基盤が形成された
安全な食肉の取扱や狩猟廃棄物の管理など、実践的な取組は、健康面と環境面の双方に利益をもたらす不可欠な実践である。今後の取組を進めるためには、実施を拡大・継続・強化するための国レベルの規制枠組みと、専用の資金調達メカニズムが必要である。エル・パルマルの経験は、地域社会を基盤とした自然保全を公衆衛生上の目標と結び付けることで、アルゼンチン国内の他の国立公園にも適用可能なモデルとなり得ることを示している。
【エル・パルマル公園レンジャー セシリア・モヤノ氏のコメント】
「ワンヘルス・アプローチによって、私たちは大学や地域社会と協力して取り組むための手段を得ることができました。現在、レンジャーは外来種の管理を行うだけでなく、公衆衛生や自然環境の保全にも貢献しています。この協力関係によって、公園での日々の活動もより充実したものになりました。」
ワンヘルス共同行動計画(OH JPA)との関連性
本ケーススタディは、ワンヘルス共同行動計画(One Health Joint Plan of Action:OH JPA)が、国・地域レベルでいかに効果的に運用されるかについての具体的な事例を示している。アルゼンチンのエル・パルマル国立公園における外来種と、それに関連する人獣共通感染症の統合的管理は、政策とガバナンス(パスウェイ1)、多部門間の連携と統合(パスウェイ2)、ならびに科学的エビデンスの創出 (経路3)が、ワンヘルス・アプローチの実践的な実施にどのように寄与するかを示している。
また、この取組は、人獣共通感染症の脅威によるリスクの低減(トラック2)、風土病の管理(トラック3)、食品安全対策の強化(トラック4)、及び環境衛生を自然保全戦略に統合すること(トラック6)に焦点を当てることで、OH JPAのアクショントラック2、3、4、6を推進している。
外来種管理、疾病サーベイランス、学術研究、地域社会との連携を統合することで、本事例は、保護地域における地域能力の強化、生物多様性の保護、および健康安全保障の向上において、ワンヘルスが変革的な価値を持つことを浮き彫りにしている。