WOAH(国際獣疫事務局:World Organisation for Animal Health)は、世界各国と協力して動物の病気を防ぎ、動物と人の健康を守るとともに、人・動物・環境の健康を一体的に考えるワンヘルスの取組を積極的に推進している国際機関です。
FAVAワンヘルス福岡オフィスは、日頃からWOAHとの連携を深め、特に福岡県のワンヘルスの取組について積極的な情報共有と意見交換を重ねてきました。こうした継続的な働きかけを通じ、このたび、福岡県のワンヘルスの取組が、WOAHが各国・各機関の先進的な実践事例を紹介するケーススタディの一つに選定され、世界に向けて発信されました。
福岡県の取組は、国際機関が進める「ワンヘルス共同行動計画」※を地域レベルで実践する優れた事例であると評価され、他地域でも再現可能な枠組みとして注目されています。
弊所は引き続き国際機関と連携し、ワンヘルスの理念と実践の普及に努めます。
※ワンヘルス共同行動計画(OHJPA)とは、世界保健機関 (WHO)、国連食糧農業機関 (FAO)、国連環境計画(UNEP)、国際獣疫事務局 (WOAH)の4つの国際機関が協力して策定した、ワンヘルスの国際的な行動計画です。感染症、薬剤耐性、食の安全、環境問題等に、分野を超えて連携して取り組むことを目指しています。
掲載URL:https://www.woah.org/en/document/one-health-in-action-fukuoka-prefecture-advancing-one-health-at-the-sub-national-level-in-japan/
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<参考> 内容を日本語に仮訳したものを以下に掲載します。
タイトル:「ワンヘルスの実践:福岡県-日本の地方自治体レベルにおけるワンヘルス推進 」
課題の概要とワンヘルスの背景
西日本に位置する福岡県は、人獣共通感染症や薬剤耐性(AMR)をはじめとする新たな健康上の脅威に対応するため、分野横断的かつシステムベースの対応が重要であると認識している。人と動物の関係性の変化、地球温暖化、生態系の劣化等の要因により、統合的なワンヘルス・アプローチの必要性が一層高まっている。
福岡県は、ワンヘルス推進において長い歴史を有しており、2016年に開催された第2回世界獣医師会-世界医師会“One Health” に関する国際会議(GCOH)で採択された「福岡宣言」の発祥地として知られている。この基盤の上に、福岡県は、2020年に日本初となる「ワンヘルス推進基本条例」を制定し、多分野連携を推進するための法的枠組みを整備した。
さらに2022年には、この条例を具体化するための包括的な「福岡県ワンヘルス推進行動計画」を策定した。この計画に基づき、福岡県は県民、企業、関係団体、市町村、近隣自治体及び国と連携し、人・動物・環境の健康が調和して共存する社会の実現に向けた取組を進めている。
解決策及び対応戦略
〇法的・政策的枠組みの構築
福岡県の先駆的なワンヘルス推進基本条例では、ワンヘルスの考え方に基づいて課題へ取り組むため、以下の6つの基本方針を定めている。この条例は、研究、監視、教育及び官民連携を通じてこれらの理念を具体的なプログラムへ落とし込む「福岡県ワンヘルス推進行動計画」の基盤となっている。
1. 人獣共通感染症の予防
2. 薬剤耐性(AMR)対策
3. 環境及び生態系の保全
4. 人と動物との共生社会づくり
5. 人の健康と福祉の推進
6. 環境と人と動物のより良い関係づくり
〇制度革新と能力強化
福岡県は分野間の連携を強化するため、「ワンヘルス総合推進室」を設置した。この組織は、行政機関、学術界及び市民社会の連携を促進する役割を担っている。
また、福岡県南部のみやま市では、日本初となる「ワンヘルスセンター」の整備が進められており、2027年の開設が予定されている。この施設には、保健環境研究所や家畜保健衛生所等が設置される予定である。センターではワンヘルスに関する統合的な研究及び調査を実施し、さまざまな組織や団体との共同研究・調査能力を強化する計画である。
〇社会・企業との連携
2021年から福岡市で「福岡県ワンヘルス国際フォーラム」が毎年開催されている。フォーラムには専門家、政策立案者、市民等数百人規模の参加者が集まり、ワンヘルスに関する取組や知見を共有している。2022年には800人以上が現地参加し、地域に根差した科学コミュニケーションのモデル事例となった。
また、企業や団体、起業家は「ワンヘルス宣言事業者登録制度」に参加し、ワンヘルス理念に沿った活動への取組を宣言できる。活動例として、プラスチックごみの削減、AMRに関する啓発活動、自然や動物とのふれあいによる健康増進等が挙げられる。
〇教育と普及啓発
高校生までの学生及び一般市民向けに、ワンヘルスへの理解を深めるための冊子や動画教材が作成されている。これにより、若者、地域社会、専門職人材の長期的な意識向上と能力開発が図られている。
また、福岡県は、「ワンヘルス認証制度」を創設した。これは、ワンヘルスの理念に基づいて生産された農林水産物や加工品を認証する制度であり、環境に配慮した農業手法による生産物等が対象となる。
関係者
福岡県の取組には、以下の主体が関与している。
・福岡県(主導機関)
・大学、研究機関
・アジア獣医師会連合(FAVA)
・FAVAワンヘルス福岡オフィス
・ハワイ大学ジョン・A・バーンズ医学部等の国際機関
・福岡県医師会、福岡県獣医師会
・世界獣医師会(WVA)、日本医師会(JMA)、日本獣医師会(JVMA)
・ワンヘルス宣言事業者
・農林水産関係生産者
・教育機関
・環境・野生生物・森林・水産分野の関係者
成果と影響
〇教育分野
・ワンヘルス国際フォーラムを2022年に開始(2022年は現地参加808人、ライブ配信視聴者566人)
・「ワンヘルスフェスタ2023」を開催(筑後会場:約2,500人、福岡会場:約7,500人が参加)
・2023年から高校および大学でワンヘルス教育を導入
・PRイベント、テレビCM、大型小売店の特設売場等による普及活動を実施
〇システム強化
・2022年9月に農林水産業向けワンヘルス認証制度を開始
・認証事業者数:11,814
・ワンヘルス宣言事業者数:11,347
・ワンヘルス認証製品:約500品目
〇研究・政策
・国際機関との連携を拡大
・2023年にFAVAワンヘルス福岡オフィスが正式開設
・2023年にハワイ大学と福岡県が覚書(MOU)を締結
・教育交流およびカリキュラム開発を推進
・県内ほぼすべての市町村がワンヘルスへの取組を宣言
〇公表資料
福岡県は毎年、「福岡県ワンヘルス推進行動計画実施状況報告書」を公表している。この報告書には、政策や法制度の背景、行動計画の進捗、効果指標及び今後の方向性等が記載されている。
〇今後の目標
・人獣共通感染症の早期発見
・AMR対策の強化
・より健全な生産システムの構築
・監視体制の効率化
・2027年のワンヘルスセンター開設
・全高校への教育プログラム拡大
・2028年までに登録事業者13,500社達成
・認証事業者・認証製品の継続的拡大
・ブランド力および消費者認知度の向上
〇福岡県知事 服部誠太郎氏のメッセージ
福岡県は、2016年の世界獣医師会・世界医師会グローバル会議において福岡宣言が採択されて以来、ワンヘルス推進において主導的な役割を果たしてきました。この基盤の上に、2020年には日本初のワンヘルス推進基本条例を制定し、その理念を実践するため本行動計画を策定しました。
ワンヘルスの推進には、県民、企業、団体および行政の協働が不可欠です。
私たちは、人と動物の健康が健全で持続可能な環境と調和して共存する社会の実現に向け、共通の目標を着実に推進していきます。
実施上の課題
〇市民への認知拡大
ワンヘルスの理念の普及は大きな課題であった。しかし2024年の県民調査では、住民の50%以上がワンヘルスを認知していることが確認された。
〇参加促進
ワンヘルス宣言事業者登録や認証取得による具体的な利点を明確にし、参加を促進する必要があった。
〇分野横断的連携
縦割り行政を克服するため、ワンヘルス総合推進室を設置し、包括的な連携体制を整備した。
〇研究連携
専門分野の異なる研究者同士の協働を促し、新たな学際的研究を推進することが求められている。
得られた教訓
・法的基盤は継続性を保証する
・市民参加は正当性と支持を高める
・教育は長期的な投資である
・国際連携は能力向上と認知度向上につながる
・認証商品を通じて日常生活と結び付けることが重要
・データ統合と明確な成果指標の強化が今後の課題である
ワンヘルス共同行動計画(OH JPA)との関連性
福岡県の事例は、以下の3つの経路のすべてを網羅しており、地方自治体レベルでOH JPAを包括的に実践した好例である。
1.2020年に制定されたワンヘルス推進基本条例による政策・財政
2.ワンヘルス総合推進課設置及び他分野連携による組織・制度連携
3.今後設立予定のワンヘルスセンターを通じたデータ・エビデンス
また、同時に福岡県の取組は、6つの「アクション・トラック」を全て網羅している。すなわち、教育を通じてワンヘルス能力(トラック1)を強化し、統合的なサーベイランス(監視体制)により、人獣共通感染症の予防(トラック2)を促進し、地方特有の感染症の管理(トラック3)を行っている。また、持続可能性の認証を受けた製品を通じて環境保護(トラック6)と食品の安全性確保(トラック4)を図り、薬剤耐性(AMR)対策(トラック5)を基本的な政策目標として明確に優先している。
福岡県モデルは、政策・連携・参加型ガバナンスを通じてOH JPAを実践する方法を示しており、他地域でも再現可能な枠組みとして注目されている。