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ワンヘルスの実践:ワンヘルス・アプローチを用いた人獣共通感染症の脅威のシグナル検知と対応――オランダにおける人獣共通感染症対策体制

2026.8.31

 WOAHがホームページ上に掲載しているワンヘルスに関するオランダのケーススタディについてご紹介いたします。
 ※WOAH(国際獣疫事務局:World Organisation for Animal Health)は、世界各国と協力して動物の病気を防ぎ、動物と人の健康を守るとともに、人・動物・環境の健康を一体的に考えるワンヘルスの取組を積極的に推進している国際機関です。
 

掲載URL:https://www.woah.org/en/document/signalling-and-responding-to-zoonotic-disease-threats-using-a-one-health-approach-the-zoonotic-disease-structure-in-the-netherlands/

【無断転載・利用禁止】
本ページに掲載している内容は、著作権その他の権利者であるWOAHの許諾を得て掲載しています。許可なく、複製・転載・改変・配布・二次利用等を行うことを禁止します。

one-health-case-study-netherlands-v5ダウンロード


<参考> 内容を日本語に仮訳したものを以下に掲載します。

タイトル:「ワンヘルスの実践:ワンヘルス・アプローチを用いた人獣共通感染症の脅威のシグナル検知と対応――オランダにおける人獣共通感染症対策体制」


課題の概要とワンヘルスの背景

 オランダでは、これまで公衆衛生及び動物衛生の双方に深刻な影響を及ぼす大規模な人獣共通感染症のアウトブレイクが発生している。2003年には、家禽における鳥インフルエンザのアウトブレイクが発生し、数百万羽の鳥が殺処分された。このウイルスは、家禽の取り扱い作業に従事していた数百人に感染し、その結果、獣医師1名が死亡した。また、2007年から2010年にかけて発生したQ熱のアウトブレイクでは、4,000人を超えるヒトの確定症例が確認され、少なくとも116人が死亡した。これらの危機は、組織的かつ多分野にわたる協調的なアプローチの必要性を浮き彫りにした。その結果、「人獣共通感染症のための統合的人・獣医リスク分析体制」が設立された。
 本体制の目的は、人、動物、環境の健康に関する専門知識を統合したワンヘルス・アプローチのもとで、公衆衛生上のリスクとなり得る新興人獣共通感染症を検知・評価し、制御することである。



解決策とリスク軽減のための戦略

 この人獣共通感染症対策体制は、オランダの感染症対策システムと連携している。その中核をなすのが、「人獣共通感染症シグナル・フォーラム(SO-Z)」であり、国立公衆衛生環境研究所の主導のもと、毎月開催されている。会議では、ワンヘルスの専門家が、人獣共通感染症の脅威を示す可能性のある地域、国内、国際レベルのシグナル(兆候・情報)について、体系的な評価を行う。共同評価において重要なシグナルが確認された場合には、関係者に情報が共有されるとともに、現場の専門家には月刊ニュースレターが配信される。
 問題が発生した場合には、警戒シグナルの重大性に応じて、さらに複数の段階を経た評価が行われることがある。


〇ミンクにおけるSARS-CoV-2事例
 リスク評価及び管理のための本体制が初めて完全に発動されたのは、養殖ミンクにおけるSARS-CoV-2のアウトブレイクであった。ウイルスは、ミンク農場の労働者からミンクへ伝播した。2020年5月に最初の報告がなされた後、農業省は、ミンクがウイルスを拡散させる潜在的なリスクを有していたことから、直ちに届出義務を課した。さらに、ミンク及びその糞尿の輸送禁止などの追加措置も導入された。
 オランダ国内のすべてのミンク農場を対象に、SARS-CoV-2抗体の検査も実施された。さらに、早期警戒システムが構築され、自然死したミンクを毎週、動物衛生サービスに送付し、PCR検査を行った。獣医師には、本体制によるコミュニケーションサービス「Vetinf@cts」を通じて、ミンクにおけるSARS-CoV-2への対策に関する情報が複数回提供された。
 しかし、こうした取組にもかかわらず、農場から農場への感染拡大は継続したため、「人獣共通感染症アウトブレイク管理チーム(OMT-Z)」及び「人獣共通感染症行政政府調整会議(BAO-Z)」の助言に基づき、保健省と農業省は2020年6月、感染が確認された農場のすべてのミンクを殺処分することを決定した。この決定は、最初に感染が確認された農場における詳細な調査と、本体制における包括的なリスク評価に基づくものであった。
 2020年8月、オランダ政府は、すべてのミンク農場について、次の繁殖シーズンまでに生産を停止しなければならないと発表したこの決定は、OMT-Zの助言を受けたものであり、それ以前に実施された追加の制限措置ではウイルスの拡散を止めることができなかったことも背景にあった。また、もともと動物福祉及び倫理的理由から決定されていた、ミンクを含む毛皮生産用動物の商業的飼育を2023年以降禁止する措置について、その実施時期を前倒しすることも決定された。2021年1月8日以降、オランダでは毛皮生産を目的としたミンクの飼育が禁止された。
 これに伴い、すべてのミンク農場が恒久的に閉鎖された。




関係者

 人獣共通感染症対策体制には、中央政府及び地方政府機関、学術機関、ならびに公的・民間組織の代表者が参加している。


影響と成果

 症例に関する評価及び訓練・演習によって、本体制が人獣共通感染症の脅威に対応する上で有効であることを示すエビデンスが得られている。さらに、ミンクにおけるSARS-CoV-2のアウトブレイク後、本体制は「安全・危機管理研究所」によって評価された。
 評価の結果、本体制は概ね設計どおりに機能していることが確認された。具体的な利点として、人の健康と獣医療双方の専門知識を結集できること、明確なコミュニケーション経路によって効率的な協働が可能であること、危機の進展に応じて対策を予測し、適応させることができることなどが挙げられた。また、評価では、省庁間及び関係者間の効果的な協力も確認された。
 本体制は、緊急時の危機対応だけでなく、継続的なモニタリングと予防においても有効性を発揮している。例えば、豚インフルエンザのモニタリングにおけるギャップを明らかにし、それによって人の健康に対する潜在的リスクが明らかとなり、予防的な研究や介入につながった。さらに、疾病負担を軽減するため、オウム病についてもワンヘルスの枠組みのもとで共同研究が実施されている。
 一方、改善点として、OMT-Zに提示する質問の焦点をより明確にすること、諮問機関に意思決定をフィードバックするなど情報交換を強化すること、さらに対策の影響と遵守状況をより適切にモニタリングすることなどが提言された。これらの改善事項については、現在の本体制の中で対応が進められている。



実施上の課題

 本体制の有効性には、いくつかの課題が影響している。

〇信頼と協働
 効果的な協働には信頼関係が不可欠であり、その構築には時間とチームビルディングが必要である。

〇ワンヘルスの代表性
 近年の改革によって関係者の多様性は改善されたものの、本体制では依然として生物医学的な視点が優先されている。その結果、倫理的側面や環境的側面など、ワンヘルスにとって重要な要素が十分に取り入れられていない。

〇プロセスの明確性
 以前存在していた役割と責任に関する曖昧さは改善されているものの、継続的な注意が必要である。

〇法的・規制上の制約
 一部の小規模なアウトブレイクでは、リスクを効果的に低減するための法制度が不十分であり、現在見直しが行われている。本体制は保健省と農業省によって財政的に支援されているものの、十分に強固な法的基盤を有していない。法的基盤は改善されているが、政策が後退することを防ぐためには、更なる強化が必要となる可能性がある。

〇データ共有の障壁
 技術的・法的な課題がデータ共有を妨げ、予測、予防、アウトブレイク制御に悪影響を及ぼしてきた。法制度の改革や、メタデータの匿名化などのツールによって、こうした問題の一部は改善されている。

【オランダにおける高病原性鳥インフルエンザH5N1感染仔猫の事例】
 2025年11月19日、約2か月齢の仔猫2匹から採取された検体が、高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)H5N1陽性と判定された。これは、オランダの猫において確認されたHPAI H5N1感染の初めての既知の事例である。猫におけるHPAI感染は、これまでにも複数の国で報告されている。



得られた教訓

〇本体制は、機密性の高いシグナルに関する分野横断的なコミュニケーションと対応を強化した。 SO-Zにおける常任代表者は、専門家間の信頼醸成に重要な役割を果たしている。特に、シグナルが動物または人のいずれか一方だけに現れ、緊急の調整が必要となる場合には、専門家によって緊急性の認識が異なることがあるため、信頼関係が不可欠である。ワンヘルス迅速リスク評価ツールを標準的に使用することで、評価の改善につながる可能性がある。

〇2011年以降、協力協定は2度改定され、役割の明確化と参加組織の拡大が図られた。 その結果、対象範囲は食品媒介性疾患、環境要因、薬剤耐性(AMR)にも拡大した。効果的な協力には、明確な文書化が重要である。

〇 オランダの人獣共通感染症対策体制は、英国の「ヒト・動物感染症及びリスク監視グループ」と同様、人獣共通感染症の危機を経験した後に設立された。Q熱や牛海綿状脳症(BSE)がその背景にある。しかし、信頼関係の構築には時間がかかるため、危機への備えを確実なものにするには、平時から、体制を構築しておくべきである。

〇潜在的なリスクを検知するための情報共有には、公式・非公式の双方の経路が重要であることを認識する必要がある。

〇欧州共同の戦略と、法的に確立された欧州レベルの枠組みを構築することで、長期的な持続可能性と国境を越えた協力が強化される。




ワンヘルス共同行動計画(OH JPA)との関連性

 オランダにおける人獣共通感染症対策は、体系的かつ多分野にわたるリスク管理の枠組みに基づいている。この枠組みは、ワンヘルス総合推進部門及び多分野間パートナーシップを通じたPathway 2(制度間の連携)の実践例となっている。対策の基盤となる人獣共通感染症シグナル・フォーラム(SO-Z)は、OH JPAのアクショントラック2「新興・再興人獣共通感染症によるエピデミック及びパンデミックのリスクを低減する」を直接的に実践するものである。OMT-Zによる対応と、保健省及び農業省による協調的な行動へとつながる段階的な対応システムは、迅速かつ多分野にわたる介入を可能にする実践的なモデルを示している。
 このような機関間の協働は、OH JPAが世界的に実現することを目指している、統合的なガバナンスと対応能力の具体的な実践例となっている。

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