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ワンヘルスの実践:アルゼンチン・イグアス国立公園の野生動物―人間接触地域における 牛結核菌への対策

2026.8.31

 WOAHがホームページ上に掲載しているワンヘルスに関するアルゼンチン・イグアス国立公園のケーススタディについてご紹介いたします。
 ※WOAH(国際獣疫事務局:World Organisation for Animal Health)は、世界各国と協力して動物の病気を防ぎ、動物と人の健康を守るとともに、人・動物・環境の健康を一体的に考えるワンヘルスの取組を積極的に推進している国際機関です。
 

掲載URL:https://www.woah.org/en/document/one-health-in-action-tackling-mycobacterium-bovis-in-wildlife-human-interface-areas-of-iguazu-national-park-of-argentina/

【無断転載・利用禁止】
本ページに掲載している内容は、著作権その他の権利者であるWOAHの許諾を得て掲載しています。許可なく、複製・転載・改変・配布・二次利用等を行うことを禁止します。

one-health-in-action-tackling-mycobacterium-bovis-in-wildlife-human-interface-argentinaダウンロード


<参考> 内容を日本語に仮訳したものを以下に掲載します。

タイトル:「ワンヘルスの実践:アルゼンチン・イグアス国立公園の野生動物―人間接触地域における牛結核菌への対策」


課題の概要とワンヘルスの背景

 アルゼンチンのミシオネス州に位置するイグアス国立公園の一般利用区域において、野生のフサオマキザル及びハナグマから、牛結核菌による結核関連死の事例が確認された。
 イグアス国立公園は、世界各地から毎日約3,000人の観光客が訪れる観光地で、牛結核は、アルゼンチンにおいて風土病として存在する人獣共通感染症である。ミシオネス州には、小規模農業システム、生息地の分断化、異種間の頻繁な接触など、病原体の循環を促進する環境的・社会的条件が存在する。しかし、同州における牛結核感染の有病率に関する利用可能なデータは存在しておらず、国家農畜産衛生・食品品質サービスのデータ(2025年)によれば、2019年の保護区域に隣接する行政区における牛の推定飼養頭数は19万頭であった。
 イグアス国立公園内のサルおよびハナグマから 牛結核菌が検出されたことは、公衆衛生に対する重大なリスクであるとともに、生物多様性への脅威でもある。これらの所見は、ワンヘルス・アプローチに基づく統合的なサーベイランスおよび対策を緊急に実施する必要性を示している。



解決策とリスク軽減のための戦略

 イグアス国立公園の一般利用区域において、サルの結核の最初の症例が確認されたことを受け、学際的かつ機関横断的なワーキンググループが直ちに設置された。このグループには、生物学、獣医学、人医学、生化学など、さまざまな分野の専門家が参加した。参加機関は、以下の地域機関である。

 ・国家熱帯医学研究所
 ・国家保健研究所・研究機関管理局(ANLIS)傘下の機関
 ・アルゼンチン国家保健省
 ・ミシオネス国立大学及び国家科学技術研究会議に属する亜熱帯生物学研究所
 ・Güira Ogá野生動物保護区
 ・イグアス国立公園
 ・国立公園管理局
 ・ミシオネス生物多様性研究所

 その後、人および動物の健康分野において牛結核の診断を専門とする研究機関とも連携が構築された。これには、ブエノスアイレス大学獣医学部、ならびにANLIS傘下のアルゼンチン国家保健省国立呼吸器疾患研究所が含まれる。これらの機関の役割については、次項に詳述する。
 このグループは共同で、イグアス国立公園において病気または死亡した動物が発見された場合に使用する行動プロトコル「イグアス国立公園(世界遺産)における死亡または疾病兆候を示す動物発見時の衛生監視プロトコル」を策定し、2025年10月には、国立公園管理局によって承認された。このプロトコルは、将来的にアルゼンチンの国立保護区域システム全体へ展開する可能性を持つものであり、野生動物の健康管理を強化するとともに、これらの地域における動物、人間、環境の健康に対するリスクを低減することにつながるものである。
 公衆衛生上の潜在的なリスクを軽減するため、イグアス国立公園で日常的に勤務する労働衛生担当職員およびツアーガイドを対象に、説明会が開催された。その目的は、この問題について説明するとともに、公園の一般利用区域に勤務する職員の感染リスクを低減するための予防措置を共有することであった。症例の発生と並行して、一般利用区域にあるフードコートには、パンフレットや案内表示が設置された。このプロジェクトは、IBS-CONICET-UNaMの霊長類学研究グループの研究者が、大学院論文研究の一環として指導・調整したものである。
 また、「ミシオネス州イグアス国立公園の接触地域における牛結核菌の人獣共通感染症としての発生可能性の評価」と題する研究プロジェクトが立案され、INMeTの研究者が主導している。このプロジェクトには、前述したすべての機関および専門家が参加している。本プロジェクトでは、感染状況をより正確に把握するため、一般利用区域に生息するサル、ハナグマの個体群における 牛結核菌への感染状況を評価するとともに、人間や家畜との接触がないイグアス国立公園内の他の区域についても調査を行うこととしている。また、他の野生動物種における牛結核菌の存在についても調査し、感染感受性を有する哺乳類へのより広範な影響を評価することを目指している。
 さらに、分野横断的な連携を促進するため、複数の戦略が実施された。具体的には、野外サンプリング活動の共同実施、検体採取用品・車両・燃料などの共同利用、並びに国及び州レベルの研究許可の取得・管理に関する調整などが行われた。緊急時の意思決定に向けた継続的なコミュニケーションが維持され、リファレンスラボラトリーへの検体輸送の調整も行われた。協働は、学会や科学雑誌における論文・発表の共同執筆にも及んだ。さらに、テーマ別のWhatsAppグループが2つ作成された。一つは、イグアス国立公園内での野生動物の疾病または死亡が疑われる事例を報告するためのものであり、もう一つは、公園内及び州北中部の保護区域を含む全域で発生する野生動物の交通事故死を監視するためのものである。
 これらの調整された取り組みは、複雑な人獣共通感染症の状況に対し、動物、人間、環境の健康に関わる各分野を統合して協働的に対応するというワンヘルス・アプローチの実践を示すものである。



関係者
         機関名   プロジェクトにおける役割・貢献
国家熱帯医学研究所(INMeT)(ANLIS、アルゼンチン保健省傘下)プロジェクトの調整、結核診断ラボの整備
亜熱帯生物学研究所(IBS)(CONICET・ミシオネス国立大学)野生動物疫学および霊長類学研究
野生動物救護・リハビリテーション・再導入センター「Güirá Oga」(Félix de Azara Foundation)野生動物救護・リハビリテーション・再導入センター「Güirá Oga」(Félix de Azara Foundation)
イグアス国立公園(国立公園管理局)イグアス国立公園(国立公園管理局)
ミシオネス生物多様性研究所(アルゼンチン・ミシオネス州環境省)生化学的分析、バイオセキュリティ・プロトコル
ブエノスアイレス大学獣医学部(外部パートナー)M. bovis の診断、検査室支援
国立呼吸器疾患研究所「Dr. Emilio Coni」(ANLIS、アルゼンチン保健省傘下、外部パートナー)結核国家リファレンスラボ、診断技術移転、公衆衛生サーベイランスへの知見提供





影響と成果

 この取り組みにより、イグアス国立公園における野生動物管理のための新たなプロトコルが策定され、バイオセキュリティおよび人獣共通感染症の予防に重点が置かれるようになった。
 さらに、ミシオネス州全域を対象として、交通事故死した野生動物(ロードキル)から安全に検体を採取するための新たなプロトコルの策定も進められている。
 また、アルゼンチンでは、より大規模な政策変更も進行している。国レベルでは、野生動物および家畜における結核を、国家サーベイランスシステムにおける届出対象事象に含めるための取り組みが進められている。
 現在までに、約25人の労働衛生担当者と65人のイグアス国立公園ツアーガイドが、病気の動物に関する報告手順、安全な取り扱い、予防措置について訓練を受けた。
 野外活動では、感染率を評価するため、公園の一般利用区域において、ハナグマ68個体を対象とした4回のサンプリングと、フサオマキザル18個体を対象とした2回のサンプリングが実施された。さらに、さまざまな感染感受性動物種から、交通事故死した45個体についても検体が採取された。
 また、病気の動物の目撃やロードキルの発生などの緊急事態に迅速に対応できるよう、関係者間に効率的なコミュニケーション経路が構築された。


【大西洋岸森林研究センターのマリア・パウラ・トゥハグエ博士のコメント】
 プロトコルの導入と機関間の連携強化により、病気または死亡した動物が確認された際に迅速に対応できるようになった。この取り組みにより、モニタリング対象となっている霊長類の健康リスクが低減するとともに、公園の来訪者および職員に対するリスク予防も強化された。さらに、猿の保護プロジェクトに参加している研究者らによる絶滅危惧種であるフサオマキザルの集団レベルの潜在的脅威からの保護にも寄与している。
 保全の観点からも、これらの取り組みが効果的な介入につながっていることは非常に意義深いものである。



実施上の課題

 一方、実施過程では課題も明らかになった。検体採取に必要な物資へのアクセスが限られていたこと、また、検体を適切な状態でリファレンスラボラトリーへ迅速に輸送することが困難であったことが、大きな障害となった。
 また、2025年には、研究グループの管理下にない行政上の決定により、INMeTが機関としての活動を停止した。この状況はプロジェクトの継続性に大きな課題をもたらした。特に、研究地点に近い地域に現地診断ラボを設置する計画に影響を及ぼした。
 このような状況は、学際的かつ機関横断的な協力の重要性を浮き彫りにしている。この協力があったからこそ、サーベイランス活動および研究プロジェクトを継続することが可能となった。
 また、イグアス国立公園には、野生動物の人獣共通感染症に関する具体的なプロトコルが存在しなかったため、特に自由に行動する野生動物から陽性例が確認された際の対応手順に不確実性が生じた。また、公園内で営業する食品販売業者との連携も困難であった。人間の食品廃棄物が野生動物を誘引し、人間と動物との接触機会を増加させる大きな要因となっているためである。さらに、イグアス国立公園および国立公園管理局の双方で指導者が頻繁に交代したことも、継続的な対話を妨げ、予防措置の進展を遅らせる要因となった。
 現在も、これらの課題に対応するため、連携を改善し、より明確で一貫性のあるプロトコルおよびコミュニケーション経路を構築する取り組みが続けられている。
 この経験は、イグアス国立公園の一般利用区域や、保護区域とミシオネス州の農村コミュニティとの間に位置する緩衝区域など、接触地域における人獣共通感染症に対応するためには、社会、保健、環境、学術の各分野間の連携を強化することが重要であることを示している。
 今後のワンヘルスの取り組みを強化するため、以下を推奨する。

 〇公園内の感染リスクを低減し、生物多様性を保全するため、分野横断的な協力と対話を継続すること

 〇効果的なアウトブレイク対応および積極的サーベイランスのために十分な資源を確保すること

 〇イグアス国立公園の職員および来訪者の意識を高めること



得られた教訓

 機関間のコミュニケーション経路を構築することは、検体採取および診断を進めるだけでなく、効果的なサーベイランスと影響を受けた動物の管理を行う上でも不可欠であった。WhatsAppグループのような非公式のコミュニケーションツールは、病気または死亡した動物が発見された際の迅速な調整とタイムリーな対応において、非常に有用であることが明らかになった。主な優良実践として、以下が挙げられる。

 〇継続的な技術研修

 〇病気または死亡した動物を安全に取り扱うための具体的なプロトコルの策定

 〇症例の発見、対応、報告に関する標準化された手順の整備

 〇到達が困難な野生動物種をサンプリングするためのロードキル個体の戦略的活用



ワンヘルス共同行動計画(OH JPA)との関連性

 本事例は、ワンヘルス共同行動計画(OH JPA)を国レベルで効果的に実践する方法を示す具体的な事例である。アルゼンチンのイグアス国立公園における野生動物―人間接触地域での Mycobacterium bovis 検出に対する協調的対応は、多分野間の協力・統合(Pathway 2)と、科学的エビデンスの創出および応用(Pathway 3)が、ワンヘルス・アプローチの実践にどのように貢献するかを示している。
 また、この取組はOH JPAのアクショントラック3および6にも貢献するものである。これらは、風土病として存在する人獣共通感染症の管理(トラック3)と、健康戦略への環境的要素の統合(トラック6)に重点を置いている。
 人、動物、環境の健康に関わる各分野において、現場活動、サーベイランス、研究、コミュニケーションを連携させることにより、本事例は、複雑な接触地域の生態系において、ワンヘルスが国の対応能力を強化し、生物多様性の保全を促進し、健康安全保障を向上させる上で、大きな変革をもたらし得ることを示している。

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